Q1 「生コン」って何ですか?
A 練りたてが生コン、固まればコンクリート。
コンクリートは、住宅やマンション、ビルをはじめ、道路や橋など、あらゆる建設工事で使われる基礎資材。セメント、砂利、砂、水を練り混ぜて作ります。「生コン」(なまこん)は生コンクリートの略語。練り混ぜたばかりの出来立てのコンクリートを指します。およそ90分ほど過ぎると生コンは固まり始め、一定の養生期間を経て頑丈なコンクリートになります。いわば熱湯を注いだばかりのカップ麺が生コン、3分経って食べられる状態になったのがコンクリート、といえるでしょう。
この生コンを独特の形をしたミキサー車に積み込み、品質を保つためにドラムをゆっくり回転させて、建設現場まで練り混ぜ作業を続けながら運ぶのが生コン労働者です。
Q2 関西地区生コン支部は、どんな労働組合ですか?
A 誰でも、ひとりでも加入できる労働組合。
大阪をはじめ近畿2府4県の生コン労働者を中心にした約1,500人の労働組合です。誰でも、どんな職種の労働者でも、1人でも加入できるのが特徴。生コン以外にも、さまざまな業種の労働者が加入しています。1965年結成。連帯ユニオン(全日本建設運輸連帯労働組合)の一員として活動しています。
労働者の権利を徹底して守るのはもちろんのこと、巨大資本に立ち向かって中小企業の利益をも守る政策活動や、建設業界の不正を告発し、消費者にとって安全・安心な生コン供給をめざす活動など、企業のワクをこえたユニークな運動をすすめてきました。イラク侵略と自衛隊派兵に反対する運動や日韓労働者の国際連帯運動など、反戦平和をめざす活動でも地域の中心的な役割を果たしています。
Q3 生コン工場は全国にどれくらいあるのですか?
A 95%が倒産の危機を抱えた零細企業
生コンは他の製品のように大量生産してストックすることができません。建設現場のスケジュールにあわせて注文を受けるたびに製造、運搬する必要があるので、生コン工場は全国どの地域にも必ずあり、その数はいまでも4,300工場を超えるほどです。
その生コン工場を経営する企業の95%以上は、資本金1億円未満、労働者50人以下の零細企業です。しかも、高度成長からバブル経済期に工場が乱立したまま構造不況に突入したので、生コン業界は極度の過当競争状態。ゼネコンから絶えず不当に安く買い叩かれる一方、セメントメーカーの販売拡張競争に利用され、業界は常に倒産の危機を抱えた不安定な状況下にあります。
Q4 「シャブコン」という用語をよく聞きますが、何のことですか?
A 粗悪品を生み出す元凶はゼネコン買い叩き。
同じ生コンでも一戸建住宅に使うのとダムとでは大違い。用途に応じて生コンの種類は数百にものぼり、JIS(日本工業規格)や工事基準指針などは、その種類毎にセメントや砂利、砂、水の配合割合、製造方法、打設方法を厳格に定めています。
その生コンに、建設現場で型枠に流し込み易いよういに余分な水を加えてシャブシャブの状態にしたものが「シャブコン」。普通の生コン同様に固まっても中身は軽石の状態でスカスカ。本来は100年以上寿命があるコンクリートのひび割れや早期劣化を引き起こし、欠陥マンションなどの原因となる立派な犯罪行為です。
採算と品質を度外視した工事受注のツケを生コン業者にまわすゼネコンの買い叩き。目先の仕事ほしさに手抜きの片棒を担ぐ生コン業者。この構造がシャブコンの温床であり、阪神大震災では、新幹線や高速道路の無残な倒壊の原因となりました。
関西地区生コン支部は、シャブコンの実例を告発すると同時に、中小企業の協同組合への組織化をすすめ、品質コストを確保できる適正価格や取引条件の確立、業界としての品質保証制度の確立、企業と労働者の意識改革をすすめるマイスター塾の開設などの政策を提案、推進しています。
Q5 「協同組合」というのも聞き慣れない用語です。
A 経済的弱者の中小企業が団結して誕生。
中小企業等協同組合のことです。1社ずつでは経済的に弱い立場の中小企業が協同組合に団結し、販売、仕入、品質保証などの共同事業を推進することを法律で保護。価格カルテルを禁止した独占禁止法の適用除外措置を受けられます。
現在、全国各地域に300を超す生コン協同組合があります。ただし、生コン業者はオーナー経営者が多く団結が苦手という事情に加えて、中小企業の団結をゼネコンやセメントメーカーは嫌うので、かたちだけの協同組合が大半です。
これに対し、大阪は全国のモデルといわれてきました。熾烈な価格競争の果てに大量の生コン業者が倒産、閉鎖に追い込まれた1990年代初頭の苦い経験から、中小企業とともに交通労連生コン産労や全港湾など労働組合が協力関係をもって協同組合の再建に挑戦。1994年11月にスタートした大阪広域生コン協同組合は、短期間に大阪府下の85%以上の組織率を達成しました。そして、販売価格を9,000円台から適正水準の14,000円台に値戻しするなど画期的成果をあげたのです。
関西地区生コン支部はその活動の中心的役割を果たした労働組合。そのリーダーが長期勾留された武委員長でした。
Q6 業界を良くする労働組合の活動が、なぜ「強要未遂」や「威力業務妨害」罪にあたるというのでしょうか。
A 目の上のタンコブをつぶしたいゼネコン。
業界では、協同組合加盟業者をインサイダー、加盟しない業者をアウトサイダーと呼んでいます。アウト業者は価格より仕事量を優先し、協同組合の設定価格を下回るダンピング販売で売り上げを増やそうとします。アウトが少数なら大勢に影響がなくても、一定数以上になると業界全体の値崩れが始まり、ついには協同組合の組織が崩壊。過当競争が復活して、倒産、失業、シャブコンが横行する実態につながります。
小泉内閣が誕生して規制緩和と市場原理主義が大手を振ってまかり通るようになると、ゼネコンやセメンとメーカーの後押しを受けたアウト業者が次々と工場を新設。大阪府下に占めるアウトの出荷割合が30%を超す危機的状況に直面しました。
そこで関西地区生コン支部はじめ労働組合と中小企業は、有力なアウト業者に協同組合加入を働きかける活動を開始。2004年1月までに14業者が協同組合加入で原則合意。大谷生コンと旭光コンクリート工業の2社は、他の生コン業者1社と関西地区生コン支部を保証人とする推薦書を提出しました。ところが、加入時期の同年9月末になると大谷と旭光は約束を反故にして加入しないと言い出したのです。
そこで関西地区生コン支部が保証人の立場から約束を守るよう説得したところ、この活動が「強要未遂」と「威力業務妨害」にあたるとされたのです。
Q7 逮捕当時の状況や、長期勾留された組合役員の処遇はどうだったのでしょうか。
A 精神的虐待、肉体的苦痛を強制。
事件は警察の演出で始まりました。武委員長は05年1月13日午前6時前、日課のジョギングに出かけようと玄関を出たところで逮捕されたのですが、「凶悪事件の首謀者の逮捕劇」に仕立て上げたい警察は、その姿をテレビや新聞の記者に正面から撮らせました。テレビは速報を流し、夕刊各紙は、「生コン労組幹部逮捕」という4段ぬき大見出しの記事に「連行される武容疑者」とキャプションを付けた写真を載せたり、「生コン界のドン逮捕」、「生コン組合、恐怖で支配」などと見出しを付けた特集記事を掲載しました。戸田市議の場合、議会控室で市の職員から定例議会の議案説明を受けている最中に警察がやって来て、衆人環視の中で逮捕されました。
逮捕後、警察と検察の取調べが行われました。しかし、はじめに形式的な質問がいくつかあっただけで、事件に関する取調べはほとんどなし。その代わりに担当者は組合役員らに告げました。「裁判が有罪だろうが無罪だろうが関係ない。君たちを1年程度社会から切り離しておけたらそれでいい」、「今回の事件で武委員長には引退してもらう。君たちの運動はいまの時代にそぐわない」。
起訴された組合役員は全員が拘置所の窮屈な独房に入れられ、「接見禁止」となりました。弁護士以外は、職場や組合の仲間はもちろん、家族までも一切面会が禁止されたのです。こうして、正当な労働組合活動をしただけなのに、武委員長らは虐待に等しい独房生活を9ヶ月から1年2ヶ月にわたり強いられたのです。 |