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要 宏輝のコラム

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 今号から数回にわたり、元全国金属のオルグであり、元大阪府労働委員会労働者委員の要宏輝さんによる「関生型労働運動」についての考察を掲載します。

 ■刑事弾圧との闘い(3)■

どのような争議が違法とされ、
どのような弾圧を受けるのか

③損賠請求訴訟の乱発

 1992書泉事件は書店のストライキに対して一億円近い巨額の損害を認容。以降、会社側の請求を認める判決が相次ぐ(御国ハイヤー、日本一生コン、眞壁組、千葉動労、岡惣事件など)。巨額の損賠請求は訴訟の勝敗ではなく、組合の権利行使を委縮させることが目的ではないか。


④妨害禁止の仮処分

 過去、筆者が現役のころ、労働仮処分は保全の必要性に加えて、特に緊急性を要する(労働者が飢え死にする)解雇事件などに限って決定されてきた。が、現在は逆転し、使用者側からの「争議戦術」としての仮処分申立てが頻発している。1989年成立の民事保全法(注4)の登場によって仮処分の対象が広がった(④⑤⑥)。裁判所が争議中の労使双方に決定的な影響を与えることのない「慎重な判断」をしているようには見えない。審尋(当事者に与える反論の機会)一回で、実に広範囲な禁止を認める決定が出されている。

 (1)事業施設への立ち入り禁止・事業施設の明渡し等を求める仮処分を求める仮処分
 (2)業務の妨害行為の差し止めを求める仮処分
 (3)争議行為そのものの差し止めを求める仮処分(審尋なしで、スト禁止の仮処分決定も!:2012年鈴鹿さくら病院、注5)
 (4)ビラ貼付等の禁止を求める仮処分
 (5)物品の引き渡しを求める仮処分
 (6)行動の自由妨害禁止・私生活の妨害禁止を求める仮処分、など


⑤宣伝禁止の仮処分
⑥私宅 周辺での宣伝の禁止

 筆者が現役のころは、街宣が争議行為の有力な役割を果たした。私は、大きな街宣デモや継続的な街宣をやる時は、裁判所や労働委員会の判決や命令を勝ち取ってから行うべきものと決めていた(案の定、禁止の仮処分決定もなかった)。しかし、1995年南労会事件では労働委員会命令が連勝続きであったにもかかわらず、法人経営者の自宅周辺での街宣は争議行為の正当性の検討の埒外(ちらがい)とされた。現在では、⑤・⑥関係の仮処分では、自宅周辺300m~500mの範囲で一律に宣伝行動を禁止する決定が出されている。自治体の騒音防止条例の制定も影響している。つまるところ、会社の塀の中で静かに労働争議はやれということか。
個人争議やこれを支える地域ユニオンには判決等を悠長に待ってる余裕はない。団交拒否から早々と街宣活動を始めると、例示したような様々な仮処分決定の餌食にされる、大変な時代だ。関生支部のように、判決・命令如何に関係なく闘える力量が不可欠だ。


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生き延びていた思想検察
復活する「現代の特高」

 法の目的とかけ離れた逮捕、不当な長期勾留(代用監獄)の常態化の現状は、戦前の「予備拘禁制度」(刑期を終えて釈放されるべき者を無制限に監禁できる)と区別がつかない、弾圧の時代が近くに来ていることがよくわかる。
「『検挙から裁判までの間において、実質的な裁判と云いますか、それはむしろ検挙から起訴までの間に行われ、裁判はむしろその終末を告げるというような実情にある』というある思想検事の発言は、つまり、裁判となる以前に実質的な処罰が済んでしまっているということである。起訴までに勾留されている期間が相当長く、その間に物理的・精神的な拷問にさらされ『転向』への誘導が執拗に行われた。…それは裁判の形骸化を示すとともに、検挙から起訴までの過程において、思想検察によって実質的に断罪されたことを意味する。…GHQの『人権指令』(1945年10月)で特高警察は解体されたが、思想検察は見逃されその存在は現在まで続いている」(岩波新書、荻野富士夫「思想検事」P205)。
戦後、治安維持法の廃止によって特高警察は解体されたが、稀代の悪法「共謀罪法」によって、現在の公安警察が戦前の特高警察のように復活しつつある。

闘いによって悪政を打倒
武執行委員長からの提起

 多くの人々にとっては、自分の権利が侵害されていない限り、何か事件が起こっても他人事と思ってしまう。実は、その他人事が自分につながっているし、国の在り方にもつながっているとの認識が共有されていない(これこそ、真の危機!)。一つひとつの人権侵害や弾圧に異議申立ての声を上げていかないと、本当に安倍の画策する「戦前回帰」が現実になってしまう。攻撃があるから、即争議になるわけではない。攻撃に反撃する力が組合に無ければ(法が保障している)争議すら成立しない。権力から不当弾圧を受けるということはそれだけ力があるということだ。

 関生支部は不当弾圧の決着は現場でつける、王道の闘いを貫徹している。公安・警備警察の活動を法で規制することが難しいのであれば、反撃の連帯行動を強めて彼我の力関係を変えていくほかない。「最も大事なことは、闘いによって悪政を打ち倒していくことだ」(武委員長の昨年11月25日中央委員会総括の締めの言葉)。悲観と楽観の違い、悲観は情緒に流されるだけだが楽観には(展望をひらく)意思がある。
(つづく)、


【前回からの注釈】
 (注2)暴力行為等処罰ニ関スル法律:団体または多衆による集団的な暴行・脅迫・器物損壊・強要(面会強請・強談威迫)などを特に重く処罰する日本の法律である。治安警察法17条の削除に伴う制定で、公布・施行は1926年(大正15年・昭和元年)、2004年に改正。「暴処法」、「暴力行為等処罰法」などと略す。由来から判るように、政府が労働運動としての同盟罷業を封じ込めることが本来の立法趣旨である。

 (注3)共謀罪法(改正組織的犯罪処罰法):処罰対象犯罪の実行行為を必要とせず、相談・計画した段階で摘発できる。本来、公安・警備警察は憲法秩序や民主主義を暴力によって破壊する活動を監視し予防する活動を任務としてきた。犯罪の可能性を取り締まることを名分に、法を超えた形で活動できる。日弁連は、「そこまでしなくても今の法律で十分対応できる、共謀罪はやりすぎ、基本的人権の侵害だ」という見解。政府は、オリンピック・テロを口実に「テロ等準備罪」と呼び変え、6月に強行採決、成立させた。

 (注4)民事保全法による仮処分:権利の実現の保全のためになされる暫定的処置。民事保全(仮差押え)のひとつ。物に関する請求権の将来の執行保全のために、仮差押えと同様の目的から債務者の財産(特定の目的物)の現状保持をねらう〈係争物に関する仮処分〉と、将来の執行には不安はないが、権利関係に争いがあるために、現状について暫定的処置を講じて債権者に生じている現在の不安や危険の除去を図る〈仮の地位を定める仮処分〉(民事保全法23条以下、52条以下)とがある。

 (注5)ストライキ禁止の仮処分:2012年、ユニオン三重に属する鈴鹿さくら病院分会のストライキ通告に対して、裁判所は審尋をせずにスト禁止の仮処分を決定。裁判所の「労組法無知」は顰蹙(ひんしゅく)をかった。


  【 くさり3月号より 】

 
 筆者プロフィール
 
  要 宏輝  かなめ ひろあき
 
 1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など

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