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要 宏輝のコラム

見出し

 
 「関生型運動」考察と「労働運動要論」⑫

  今回は先月スタートした新しいテーマ、長澤運輸とハマキョウレックスの「労契法20条裁判闘争」の2回目の掲載です。二つの闘争と裁判の勝利判決は社会的にどのような影響を与えることになったのかを学び、今後の闘いに活かしていこう(機関紙部)
  



  ●二つの判決に呼応したアクション●

 
 
 様々なアクションは、まずは長澤運輸事件の東京地裁勝利判決(2016.5)の衝撃から始まり、両事件の高裁判決後、そして最高裁判決後に起こった労使の動きは主にA~Cの三つだ。

 A・定年後雇用条件の見直し(「即(そく)、均衡待遇」の取り組み)

 B・定年延長(「即、均等待遇」の取り組み)、の二つは労契法18条の「無期雇用みなし」(2018年4月1日スタート)と絡めた早急(さっきゅう)な労使の動き。

 C・新法の施行までに労使交渉で結論を出す(時間をかけて、すべての労働条件を点検し、就業
規則・労働協約改定の取り組み)、この労使の動きは、新法「パート・有期雇用労働法」や「働き方改革関連法」の施行日(後述)までに労使交渉で結論を出すという
取り組みだ。

 

 A 60歳定年後の再雇用条件の見直し
 即(そく)、均衡待遇


 意識その1:長澤運輸の判決の事実認定の中で、基幹的労働条件である賃金については均衡待遇の判断の枠組みがほぼ確定した。
 定年後再雇用者の基本賃金は同一労働正社貴の80%前後が妥当水準か。長澤運輸のケース:賞与なしの年収で79% 、丸子警報器判決:パートの賃金は同一労働正社貴の80%(1996.3.15長野地裁)の踏襲でもある。

 筆者が関与したN労組(組合員約160人、日本では珍しい定年後再雇用者も組合員資格維持のメインテナンス・オブ・メンバーシップ制)は、長澤運輸の東京地裁勝利判決(2016.5)の直後から団交を重ね、A・60歳定年後再雇用条件の見直し=「均衡待遇」をいち早く勝ち取った(2017.2)が、それは基本給・貸与のみの見直しに終わり、皆勤手当はじめ諸手当の見直しは手付かずのまま妥結した(別掲図表参照)。

 均等待遇100%を取れなかった代替策として再雇用期間67歳延長に改訂させた。均等待遇の不足分を65歳からの2年間で取りもどす苦肉の策だ。

 ハマキョウレックス晟高裁判決にそった諸手当の均等支給にむけての再交渉は現在進行形だ。特に「①無年金」の再雇用者の「同一価値労働同一賃金」にむけての再交渉が喫緊の課題で、定年延長の課題と抱きあわせて攻めている。

 ただ、②報酬比例年金受給時、③報酬比例年金・基礎年金併給時(65歳以上)のケースでは、総報酬月額(基本給・賞与・年金)が、②で「28万円」、③で「47蔓延」を超える金額の半分が年金カットされる。

 つまり、定年延長しない限り、基本給・賞与の均等待遇を阻むカベになっていることを留意されたい。均等待遇には年金改革、高齢者雇用対策なども絡んでくるので厄介だ。


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 B 65歳以上の定年延長
 即、全面的な均等待遇

 意識その2:ハマキョウレックス事件の判決は五つの諸手当の均等待遇にとどまらず、その法的効果は賃金以外の諸労働条件に及ぶこと。
 ハマキョウレックス事件も正規と非正規雇用の格差を埋めることに大きな役割を果たす。同事件の最高裁判決の意義は諸手当の格差
解消にとどまらない。

 その法的効果は、「賃金・諸手当、労働時間、休日の基準などの基幹的労働条件のみならず、休暇、安全衛生の基準、労災の企業内上積保障、福利厚生給付の内容も当然含まれるし、解雇、配転、出向の基準・手続き、服務規律・懲戒の基準・手続き」(「菅野労働法」p337)
などすべての労働条件に至る。

 判決の言うように、それぞれの労働条件は裁判所によって「個別判断」されるとなると、個別労働条件ごとに個々人からの訴訟を提起され、企業は裁判等に忙殺されることになる。これを回避する賢明な方策は「65歳以上の定年延長」だ。正社員と嘱託社員(再雇用)との不合理な格差問題は一挙に解消する。

 報道では、定年延長の動きは「急」だ。段ボール大手のレンゴーは、定年後に年収を約4割下げていたが、来年4月、賃金水準も下げないで定年を65歳に引き上げ、現在の再雇用者を正社員化する。
昨年、「65歳定年制」を尊入したホンダは、59歳時点の賃金の8割を保障している(役職手当の抑制や役職定年制導入などの措置も)。

 政府は、国家公務員の65歳定年の法改正の検討に入り、高齢者雇用安定法を改正し、現在の継続雇用義務年齢65歳を努力義務70歳に引き上げる方向だ。

 17年の厚労省調査では、定年65歳以上:17%、定年制廃止:2.6%、再雇用:80%強というのが実態だ。
 なお、手当を廃止して均等化を図るといった、ウルトラCの悪しき「即、均等待遇」も見られた。
日本郵便は郵政ユニオンの提起した大阪地裁で敗訴(2018.2.21)し、非正親社貴と同一労働の正社口約5000人の住宅手当(最大2万7千円)を廃止して「非正規に合わせる」といった仰天対応を行った。

 「廃止のきっかけは民間の単一労組で国内最大のJP労組24万人)の18春闘の要求で、会社は組合の考えに理解を示して決まった」(4.13朝日)。
 まさに社会的糾弾もので、御用組合の労使自治ほど、醜悪で有害なものはない。この廃止ケースは、一方的不利益変更に該当し、当該の正社口が訴訟を起こせば絶対勝てる事件だ。


 C 新法の施行までに労使交渉で結論出す
 総合的な労働条件の検討・是正


 意識その3:労働条件の「不合理との評価を妨げる事実の主張立証は使用者である」と2つの最高裁判決で示されたこと。改正「パート・有期労働法」で、使用者の説明義務が明文化されたこと。これによって、団交は労側が有利に展開できる。

 Cの労使の動きは、正社員と非正規の待遇に不合理な差をつけることを禁止する新法「パート・有期雇用労働法」(施行:中小企業21年4月、大企業20年4月、労契法20条は新法に移行・廃止)、政府の掛け声倒れに終わった「働き方改革関連法」(施行:19年4月)に対応した、よく言えば「総合的」取り組みだ。新法によって規制される「労働条件」とは労契法20条と同じだ(前述)。

 ただ、Cのケースは、労契法18条の「無期雇用みなし」がすでに18年4月1日にスタートしているので、「生涯無期雇用」の権利を持った労働者の権利行使を回避するために、使用者は、労働局の「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例認可」を受ける必要がある。

 しかし特例認可を受けても、それ以前に「無期転換」の権利行使=申し込みを受ければ、申込者は自動的に無期雇用者となってしまう。

 新法等の施行日までに、労使交渉で格差是正の方策を見出す労使が大半だ。今年の秋闘方針で初めて取り組む単産も少なくない。
団交で進展がみられなければ、当該の組合員や非組合員が個人裁判を積極的に提起することだ。「お金にならないからやらないとか、勝てないからやらないとか、本人(労働者)にやる気がないからやらないとなると権利は自減りしていく一方。

 どんな権利裁判でも、なんとか弁護士も儲かって、本人もやる気が出る方法を考えて大量に提訴すれば、勝てるようになるのではないか」とは、筆者の親しい弁護士の弁だ。

 「所属労組(筆者注:御用組合)の支援を得られず起こした個別紛争だが、結果的に多くの組合員の権利を勝ち取り、正当な組合活動に当たると主張。組合規約にある扶助を受ける権利として、弁護士費用等の諸費用等を、また同労組から受けた妨害行為で精神的苦痛を受けたことへの慰謝料も求めている。組合員のために闘わない労組の自的は一体何なのか」と所属組合を訴える、画期的な動きも生まれている(8.30「労働新聞」)。


  【 くさり11月号より 】


  

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 筆者プロフィール
 
  要 宏輝  かなめ ひろあき
 
 1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など

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