GSEFビルバオ大会に参加して
大阪労働学校・アソシエ
社会的連帯経済研究会代表 津田 直則
■GSEFの歴史は■
社会的経済または社会的連帯経済を世界に広げることを目的とするGSEF(グローバル社会的経済フォーラム)国際会議は2014年から2年に1度開催。14年は韓国・ソウルで、16年はカナダ・モントリオールで、今年はスペインのビルバオで開催され、ソウル市長を中心とした事務局が常に運営を担っています。
世界中から参加が
ビルバオ大会は10月1日から3日まで開催され、3日午後から5日まではモンドラゴン協同組合など事業現場の見学が行われました。参加者は84ヵ国から1700人、ワークショップ(分科会)発表団体は約50団体(日本からは共生シンフォニー1団体)が参加しています。日本のソウル宣言の会グループとしては44人が参加し、個人で申し込んでいる人たちを入れたら50人位になっていると思われます。大阪労働学校からは3人が参加しました。
■今大会のテーマは■
今大会のテーマは
ビルバオ大会の中心テーマは、①価値、②競争力、③包摂的で持続可能な地域創生、という3つが基礎になっており、③がさらに4つのサブテーマに分割され、この4つのサブテーマはさらに5~7つの項目に分割されています。
つまり、合計23のテーマが全体会議と分科会約50団体で議論の対象になっています。
■全体会議での議論■
1~3日の午前中は全体会議(大ホール)が開催されましたが、GSEF関係者や世界各地の市長や著名人が壇上に並び一人ずつが挨拶や意見を述べる形で進められました。
一人当たりの話す時間が少なく議論が深まることが容易でないのは14年以来のGSEF会議の共通点ですが、世界各地の市長が壇上に並び地域と行政が協力し合う姿を毎回重視したり、世界各地の組織代表者が集まって語り合う姿は、社会的連帯経済が発展する姿を世界に印象付ける形になっています。ちなみに日本からの市長の参加はゼロです。
■分科会にわかれて■
分科会の参加団体の活動内容の説明文がモントリオール大会に比べて短く、また中心テーマ23のどれとつながっているのかがわかりにくいのが難点でした。また研究者の学会ではないために、社会的連帯経済の各種問題点を掘り下げる分科会がないのも問題ではないでしょうか。
ビルバオに出発する前に中心テーマに書かれている「競争力」という言葉についてメーリングリストで東京を中心に議論が戦わされましたが、まさにこの問題は社会的連帯経済の理論的検討課題の一つです。しかし、ネットワークを世界に広げることがGSEFの主目的になっているために、論争的問題は無視されているのかもしれません。
■各種の施設を見学■
ビルバオ大会では、全体会議や分科会とは別に、3日午後から5日まで希望に応じて選べる各種施設への見学会が設けられています。私が参加した見学会について紹介したいと思います。
第1は雇用を目的とした知的障がい者の施設です。この施設では265人が25のセンターに分かれて働いており、見学したセンターでは部品の組み立てをしていました。私がイタリアで数年前に調査した社会的協同組合の現場とよく似ていました。参加者の一人がどの位の賃金を得ているのかと質問していましたが対応者は知らないと答えました。イタリアでは日本の障がい者作業所月収の10倍を得ていました。
第2は従業員所有企業の見学です。倒産企業を従業員が買収したもので、労働者は株式の60%を所有しており、金属の粉末をメタルに加工している工場です。スペインでは一般にこの種の従業員所有企業はSALと呼ばれており、私は従来から日本でもこの倒産企業の従業員買収制度は導入すべきだと主張しています。
第3はモンドラゴン協同組合のファゴール・アラサテ工場です。モンドラゴンファゴール家電企業は数年前に倒産して無くなりましたが、このプレス機械を生産するファゴール企業は倒産していません。アラサテとはバスク語でモンドラゴンという意味です。
第4はバスク国民党の訪問です。バスク州議会では与党で30~40%の票を獲得しています。モンドラゴン協同組合と国民党は思想が近く州法でもモンドラゴンを支援しています。バスク州の一人当たりGDP(国内総生産)は欧州平均より20%高く、豊かな地域です。
第5はモンドラゴン協同組合で、山のなかの本部や大学を訪問しました。現在は協同組合数98組合、労働者数80800人で、海外に143の企業があります。
なぜ家電部門のファゴールが倒産したのかという質問などが矢継ぎ早に出されましたが、説明は次の通りです。
2008年のリーマンショック前に60万戸の住宅建設バブルが起こっていた。そのため家電製品に大きな需要が生まれ、資金不足で大きな借り入れを行った。ところがバブル崩壊後住宅建設は10万戸に激減し、家電への需要も下落して借金返済が大きな負担となり、本部による3億ユーロの支援も追いつかず破綻したというものです。1895人の労働者は他の協同組合への移動により救済し、出資金も銀行が負担しました。
■反弾圧の支援要請■
今回のGSEFビルバオ大会に参加中、関生支部弾圧への支援を訴え3人の人物と名刺交換をしました。
第1はGSEF国際会議を主導するソウル市長朴(パク)氏です。ソウル宣言の会が代表10人ほどで朴市長と面談する機会を設けてくれたので、私から関生支部を支援する国際ネットワークを形成するために協力してほしいとお願いし、協力するとの回答を得ました。
第2は国際労働機関ILOの協同組合ユニットヘッドのシメル・エシムさんです。全体会議でのパネラーの一人であり、意を決して終了後に探して挨拶をし、労働組合が弾圧されていることへの支援を訴えました。詳しい情報はいずれ送ると伝えてあります。
第3はフランスの共済組合ディレクター ヤニック・ルカスさんです。あるきっかけで知り合いフランスの労働組合を紹介してもらえることになりました。
これらのうちILOには労働組合弾圧の不当労働行為を提訴することが可能であり、日本政府に勧告が出されることもありえます。フランスの労働組合、韓国の労働組合その他と連携をとりILO提訴を支援してもらうことも併せて検討することを大阪労働学校理事会に提案しました。
●世界の協同組合運動に触れて●
大会に参加し、関生型運動を世界に向けて発信し、各国の協同組合運動を学ぶ良い経験を積ませていただきました。今大会には84カ国から1700人の参加があり、事情により参加できなかった方々、それぞれの現場で闘っている人たちを考えると、その何倍、何十倍もの仲間が同じ目的意識を持ち、世界各地の現場で課題に取り組んでいることを頼もしく感じました。
たくさんの人たちと出会い、多くのことを学び、まだ消化しきれてはいませんが、今後あらためて報告させていただき、実践に活かすことができればと考えています。ご支援いただいた皆様ありがとうごさいました。
(関西派遣団/大阪労働学校事務局)
【 くさり11月号より 】