要 宏輝のコラム
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三.企業別労働組合をどう改造・整形するか
(4)「企業別労働組合をどう改革するか」は、左・右を越えて、1945年労働法が企業別組合を法認して以来の70年余の課題である。現在、改革の道は二つ提起されている。一つは組織原理(法改正などを含む)からのアプローチ、もう一つは行動原理(「同一価値労働同一賃金」ほか)からのアプローチである。
私がこの改革課題を「仮説」扱いとしているのは、企業別組合の根本評価(論争)が、とりわけ「左」の運動世界でも決着していないからである。
企業別組合の評価・役割をめぐる、有名な戸木田嘉久・中林賢二郎論争がある。「巨大企業別組合の主導権を階級的・民主的潮流が握ることになれば、独占資本の管制高地は、たちまち労働者階級の巨大な城塞に転化する」とする戸木田と、企業別組合否定論者で「企業別労働組合の組織的弱点の克服」という幻想すら持たなかった中林との共産党系学者内の論争。
筆者のよく知る下山房雄氏は中林論に与(くみ)した。戸木田「戦略論?」の背景には,共産党の『70年代の遅くない時期に民主連合政府の樹立!』という大方針があり、そのために共産党は、「中小企業」を民族資本として擁護し、さらには「教師=聖職者論」、「公務員=全体奉仕者論」、「(暴力)ガードマンにも職業選択の自由の自由がある」(注2)など、国民ウケする労働政策を次々と打ち出した。
そして鼎立する連合・全労連・全労協の三つとも組織を減らしている現状においてすら、肝心の企業別組合の「評価」論争はいまだ決着していない。
(5)なぜ、「現代」の企業別組合は「諸悪の根源」なのか。
それは労働者が企業から自立して団結すること、その団結を階級的に強め、横に連帯することを困難にする組織形態であり、使用者と癒着しやすいからだ。
しかし、昔は「強い」産業別労働組合の存在自体に意義があった。企業別組合はその行動原理(統一要求・統一闘争・統一妥結)を企業の外の産別に求め、運動を高揚・発展させてきた。
つまり、産別方針を建前に、団交で、力のない単組役員でも駆け引きができた。「この低額回答では、本部オルグが団交に入る」と一言いえば、回答の上積みそして妥結が簡単にできた。集団交渉と統一ストが産業別統一闘争のダイナミズムの仕組みだった(それも総評30年史=1980年まで)。…今は、その建前も闘いも消えてなくなり、一発回答(会社の指し値回答)が罷(まか)り通る時代になってしまった。
(6)どう、企業別労働組合の組織形態を脱却するか。そのアプローチは始まっている。一つ目は組織原理の改変だ。
①職域・地域・産業レベルの組合への個人加盟方式、二重加盟方式を法律で認めること(「幅のある代表制」の公認)。現状でも個人加盟、二重加盟は実態としては存在しているし、「違法」ではない。憲法や労組法で「思想・信条の自由」は認められ、どこの企業別組合も組合規約で「人種・宗教・性別・門地または身分によって組合員たる資格を奪われない」とうたっているが、実態は異にする。例えば、関電労組のケース。原発反対の声は上げられないし、政党支持の自由もない。共産党員らは「赤ちゃん」と蔑称され、尼崎火力発電所内の「赤ちゃん収容所」に強制配転、収容された。自殺者も出し、最高裁まで争われたが、億単位の解決金で和解する事件となった(大谷昭宏「関西電力の誤算」、旬報社、2002年)。
②労組法の改正(2条但書:使用者の利益代表者の厳密な排除/7条3号:使用者からの便宜供与の厳正禁止/〇条:共同決定権のある労働者代表制の新設(西谷敏説、注3)。
大きくは①・②の二つ、細かく言えば五つほどの組織原理の改変が極めて重要である。
企業別組合の自力改革はもう無理である。組合員のパワハラ被害や賃金差別の苦情についてすら「個人と会社の問題」と逃げをうち、「労働者保護」の最低の役割をも放棄している。
そんな企業別組合を改造・整形し、非組合員の救済・組織化にもつなげる。企業別組合は団結権にもとづく自主的団結体ではなくなってしまっている。
(7)二つ目は複数組合主義への踏み出しだ。
現代の企業別組合は「正社員クラブ」に蟄居(ちっきょ)し、右はともかくとしても左(良心的組合ふくむ)も、なぜ非正規を排除し、せめて非正規従業員だけの組合(支部・分会)すら作ろうとしないのか(注4)。
「一企業一労組」という古いドグマ、ユニオンショップ協定が災いしてきた。
「正社員クラブ」が分裂し、非正規が少数組合でも作れば、「一企業一労組」・ユニオンショップはいとも簡単に崩れてしまう。意識は存在に規定されるというが、まずはあるべき姿・形に組合を変えるべきチャンスではないか。
正社員の地位と労働条件は非正規労働者の存在なしには成立しない。
2000万人にのぼる非正規(注5)の領域を組織化の「不毛地帯」とみるか、運動対象の沃野とみるか。
≪次号へ続く≫
(注2)
1960年代後半から70年代にかけて、「特別防衛保障」という暴力ガードマンが、まずは大学紛争の鎮圧、次いで労働争議介入に投入された。屈強な体育系出身の右翼思想の若者で組織されていた。本山製作所、報知新聞、那珂湊市役所、宮崎放送などの争議に介入し不敗を誇っていた。大阪では、1971年の港合同の細川鉄工などに介入し、手甲(てっこう)をはめ乱闘服に身を包み、こん棒と楯(たて)で武装したガードマンは、暴力団以上に公然と暴力を振るったので闘いは肉弾戦となった。
当時はガードマンには何ら規制がなく、野放しだった。これが警備業法制定(1972年)となり、現在、民間警備会社(民警)はセコム、アルソックの大手を中心に50万人を擁する。自衛隊23万人、警察官24万人の合計を上回る業容だ。この暴力ガードマン事件は、2017年暮れから始まっている「関生つぶし」に介入してきた右翼レイシスト集団の事件に重なる。
(注3)
共同決定権のある労働者代表制:1989年、西谷敏教授は、過半数代表制の形骸化は法目的に反する事態をもたらしているとして、「共同決定権のある労働者代表制」「常設の労働者代表委員会の設置」を提案した。
四半世紀以上が経過したが、この間、過半数代表の機能が一層肥大化する一方で、制度改革が全くなされていないために事態が一層悪化。
①労働組合の組織率の低下とともに、過半数組合が存在しない事業場が増えている。
②非正規の急増(40%超)にもかかわらず、非正規の声を反映する仕組みが形成されていない。正社員組合の意見を聴取すればよいというのは奇妙な事態である。
③労基法2条1項の宣言する労使対等決定原則に背馳し、(筆者注記:働き方改革で明らかなように)労働者保護よりも使用者保護の役割を果たしているとし、新たな労働者代表制の確立が急務であると提起している。
(注4)
複合産別のゼンセンは流通業界の非正規を70万人ほど組織化し、連合内トップの160万人。しかし、労使一体の上からの組織化方法は不当労働行為と認定され、チェックオフした第二組合の組合費相当額をパート労働者に返還せよとの救済命令がなされた。2017年12月11日大阪府労委「サンプラザ事件」)。なお、第一組合は自治労・全国一般大阪のサンプラザ労働組合。
(注5)
居酒屋から消えた貧困層:日本社会は貧困層を居酒屋から追い出し、社会を分断しかねないところまで格差を拡大させました。
社会学は日本の社会構造を、会社経営者らの資本家階級、自営業者らの旧中間階級、管理職や専門職の新中間階級、現場で働く労働者階級と四つに分類してきました。
ところが21世紀に入って非正規雇用が増え、正規雇用との間に相当な格差が生じた。その結果、アンダークラスが新たに生まれました。
首都圏調査では、この層の49%が酒を飲まない、ひときわ酒代を節約しているという結果が出ました(6・9朝日新聞・耕論「せんべろ 軽く一考」、橋本健二早大教授)。
【 くさり8月号より 】
筆者プロフィール
要 宏輝 かなめ ひろあき
1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など