全国の首長に与える影響
公約だった景観保護のため、高層マンションの建設阻止に動いた市長に、業者の営業を妨害したとして数千万円の個人賠償を命じた判決が確定しました。
全国の首長に与える影響が危惧されます。またこの教訓を活かすことも重要です。
元東京都国立市市長の上原公子さんは、景観保護を公約に掲げて、市長に当選。
東京都で初めての女性市長となった上原さんは、「公約は市民との契約です。履行するために全力を尽くすのは当たり前。それが、こんな結果になるなんて。」と憤懣しています。
(上原さんは、大手新聞社のインタビューでこう話しています。以下、インタビューより)
もともと国立市は環境や景観に対する市民の意識が高く、問題のマンション計画でも、住民から高さを制限する地区計画づくりを要望され、条例もつくりました。
すると業者は営業を妨害されたとして、4億円の損害賠償などを求めてきました。これに対して、市民も業者に高さ20メートル以上の撤去を求める民事訴訟などを起こして闘います。
裁判は、損倍訴訟の一審で市が敗れます。一方で、市民による民事訴訟の一審では、20メートル以上の撤去を命じる判決を勝ち取りました(高裁で逆転敗訴)。景観に関する認識が、裁判官それぞれで違っていたのです。
損倍訴訟は結局、市が負け、3120万円を支払います。すると業者が同額を市に寄付してきたのです。市の財政に損害はなくなり、政治的に決着したなあと思いましたね。 だけど違った。住民が賠償金を私に払わせろと、市を訴えたのです。
今さら何を言っているの、と思いました。だから敗訴したときは、はーっ?ていう感じ。そのうえ、11年の市長選で、私に払わせると唱えて勝った新市長が控訴を勝手に取り下げていまします。それで、新たな訴訟へ。しかし、当時の市議会は新市長の判断に反対し、私への求償権の放棄を議決します。14年の一審判決は、その議決や業者の同額寄付も踏まえて市の訴えを退けました。
ところが翌年、事態が一変します。市議選があり、新しい議員らが求償権の行使を求める決議をしたのです。東京高裁は議会の変化も見て、私に支払いを命じ、そのまま判決が確定しました。
私腹を肥やした訳でもない個人に、巨額の賠償をさせる司法って何なのでしょう。業者の寄付と私の賠償金を受け取れば、市は二重取りでもうかっちゃいますよ。
反省点ですか?全くありません。公約を守ることに妥協などできますか。そもそも市長にはマンション建築の許認可権がない。それでも建設を止めるために、できることは何でもやりました。それを判決は、私が市の内部情報で住民運動をあおったとか、議会答弁などで営業を妨害したと認定したのです。
こうした行動を違法だと言われるのは恐ろしい。地方自治を殺すのか、と言いたい。これでは首長は何もできなくなります。東京・豊洲市場に関して、小池百合子都知事だって訴えられかねません。こんな判決で、多くの首長がひるんでは困ります。
(九州大学名誉教授の安藤高行さんは)
一連の訴訟には全く関わっていませんが、判決文を読んで疑問を抱きました。市長は行政マンであると同時に政治家です。
上原氏が問われたのは、政治家としての「政治活動の自由」でした。むろん、それは無制限ではありません。問題は制限の基準です。
上原氏に賠償を命じた訴訟の判決は、主な基準として「社会的相当性」を挙げています。しかし、その内容が具体的、客観的に明示されていないため、「社会的相当性」の有無が結局、裁判官の主観的判断のみでなされているように見えます。
判決には「地区計画等の策定等の法的な規制を及ぼす手続きのみをしていれば、国家賠償法上の違法と言われることはなかった」とあります。
あたかも、法令で与えられた行政マンとしての権限の行使を越えた活動は行き過ぎだと言わんばかり。要するに判決は政治家である首長を、行政マンとしか見ていない。
判決は、上原氏の住民集会での発言や議会での答弁などを、業者の信用を毀損し、営業を妨害するもので違法行為だと認定しました。
これも疑問です。虚偽の風説を流布したり、偽計・威力を用いて業務を妨害したりした事実はありません。住民運動を利用したかのような指摘もされていますが、方針が同じ住民や団体と共闘するのは政治活動として当然です。
訴訟で、市議会の求償権の「放棄議決」と「行使決議」を同列に並べたのもおかしい。放棄議決は地方自治法に基づくもの。失効させるには、市長が再議を求める必要があるのに、それをせず、放棄もしなかった。一審判決はその市長の対応を権限の濫用だと指摘していました。
もう一方の行使決議は単なる要望で、法的な裏付けはありません。それを「現在の民意を反映している」として、放棄決議を消滅させるのは法的にナンセンス。この点について、最高裁が何も言及しないのは不可解です。
そもそも業者の寄付で、実質的には国立市が支払った賠償金は取り戻しました。それでも上原氏に返還を求めた訴訟や、それを受けた新たな訴訟は、市政での反上原派のリベンジ訴訟に見えます。それは求償制度を政治目的に使うもので、制度の本来の趣旨にかなうは甚だ疑問です。
いま、沖縄の米軍基地問題で、翁長雄志知事は行政マンとしての法的権限で抵抗しています。でも法的権限を否定されたり、手段が尽きたりした場合は、政治活動で反対運動を続けるしかない。今回のように、自治体の首長の政治活動の自由を極めて狭く解した判決は、翁長知事の今後の政治活動に相当不利な影響を及ぼす恐れがあるのではないでしょうか。
今回の訴訟の判決について、当事者の訴え、学者の見識をどう捉えるか深く考える必要があります。ものごとの背景や本質を知ることが大事なのです。
現在の安倍政権では、「共謀罪」の採決強行や沖縄米軍基地・辺野古新基地建設の強行などに見られように、政権の政策に反対する勢力をつぶす動きが露骨になっています。
反面、森友学園や加計学園問題など安倍首相にとって都合の悪いことは、国民への説明義務を果たさず、押さえ込むという手法を用い、それを強行しています。
このような情勢の中、私たち労働組合は、国や地方の政策の矛盾を暴露する広報宣伝活動が求められています。
経済要求や労働条件改善要求を、職場でしっかり闘うことで、労働組合の求心力が高まるのです。その姿勢を見せることで、労働組合の組織率が高まることは言うまでもありません。
私たち労働組合は、職場の労働条件改善と政治の政策矛盾を追及する運動を一体化して闘い、安倍政権を打倒することが求められています。
【 記事:武谷書記次長 】