= 「法の下の平等」はあるのか =
犯罪とは無関係の者が「犯人」として扱われて罪を着せられることを「冤罪(エンザイ)」と言います。冤罪に巻き込まれ自分の無実を証明するのに数十年かかった人もいます。また、無実なのに犯人扱いされて拘束されている人もいます。現代社会の重大問題のひとつになっています。
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証拠改ざんを契機に冤罪事件が明るみに◆
大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を契機に、2015年5月に成立した改正刑事訴訟法は、袴田事件では「証拠のねつ造があった」こと、布川事件では再審請求後に無罪を裏付ける目撃証言が出たことなど、検察が証拠を適切に出さなかったことが問題になりました。しかし、改正法は「全証拠」の開示ではなく「証拠リスト」の開示にとどまり、志布志事件やPC遠隔操作事件の虚偽自白は、改正法で取り調べ録音・録画(可視化)の対象になったのは裁判員裁判と検察が独自に捜査する事件だけで、冤罪の問題点を制度に取り込めなかったことは、「この間の冤罪を教訓にしていない」と学者や専門家は落胆しています。
元裁判官は、「冤罪が生まれる背景には、裁判官に『冤罪を防止しよう』という熱意がなく、誤判した裁判官は道義的責任を負うべきだ」と。「一方で『無罪かもしれない』と感じても、無罪判決を避けたがる理由として、検察官に上訴権があり、無罪判決が破棄されるから。その結果、『人事上の不利益』を恐れ、及び腰になる裁判官が出るのが現状だ」とも。「最初から検察側の主張を信じ、『被告人はうそをつく』と決めつけている裁判官もいます。確かに刑を逃れるため、うそや言い訳をする被告人がいるのは事実。しかし、『この被告人もまたか』としか考えられないのなら、裁判官の資格はない」と問題提起しています。
◆無実で約48年拘束し死刑判決の恐怖に…◆
2014年3月に袴田巌さんが釈放されました。釈放後の彼は、家の中を同じルートで一日中歩き回ったり、「自分は全能の神」と会話が成り立たない状態で、精神科医は、「死刑の恐怖から逃れるための防御反応」と分析。親族や支援者の働きかけにより、回復が見られるところもありますが、47年7ヵ月間の拘束なので、すぐに回復しないは当然のことです。
◆裁判官の過った判断により冤罪が生み出される◆
冤罪の影響は家族にも及びます。家族は不安な状態と阻害されたような状態になって隠れて生きてきたことが明らかになっています。
冤罪事件の象徴的なのが証拠開示です。「最良証拠(ベスト・エビデンス)主義」という検察用語があり、有罪と見込んで起訴すれば、それに沿う証拠だけを出す。裏を返せば、都合の悪い証拠は出さないということです。
被告人が否認しているなら弁解に謙虚に耳を傾けること。捜査権力を信用せず、権力は常に腐敗する恐れがあると意識すること。裁判官には絶対に欠かせないことです。
冤罪と判明した事件はどこで誤ったのか、開かれた場で検証することが必要です。裁判所や検察の裁量だけで証拠開示の範囲が決まり、命運が左右される仕組みを改め、第三者の意見を採り入れる仕組みを作る運動を展開することが、私たちに求められています。
< 通信 / 武谷書記次長 >
【 くさり3月号より 】